2016年7月
新モデルの発表を終え
撮影を終え、新モデルの発表も無事済んだ。
名古屋での炎天下の中の撮影は私、スタッフ、カメラマンも含め辟易した。撮影終わりのお茶のがぶ飲みは学生時代の部活終りのようにひどくおいしかった。
新モデルの好評ぶりに、我々の苦労が報われた心地に、疲れも飛んだ。
ちなみに茶室を撮影場所に選んだのは、Corvoが日本発ブランドとしての意識を明確にするためである。
今後はネクタイをはじめ西陣織の絹地など、スーツにも日本由来、和を感じさせるものをちりばめたいと考えている。
撮影後の使用する写真選考の際に、来年1月に撮影に新モデルの発表を決めた。我ながらつい先日の撮影に苦労したのに次の撮影を決める。つくづく自分の積極的思考には周りに迷惑をかけつつも、経営に向いていると思う。
この業界に入るときに教わったことがある。
ファッションにかかかわるものには必ず価値がある。
その価値とは
価値=審美的価値+信頼性+耐久性+永続性+悠久性+品質
の方程式が成り立つと。
ファッションとは装いに関する、装身具、美容、香水を含めた広範の意味合いを包括する。この方程式は多くのものに当てはまると考える。
今までの経営は価値の向上を目的に信頼性、耐久性、永続性と悠久性(普遍のデザイン)、品質の価値を高める努力をしてきた。
2016年からは審美的価値の向上に努めるように舵を切った。新モデルの詳しい意匠、拘りは紹介ページに譲る。
ここからは私の新モデル発表に対する所感を。
私自身そうであったが審美的価値を高めるということは品質を犠牲にすることにつながる危惧があった。ファッション業界は審美的価値をデザイン料という言葉に置き替え、品質を犠牲にする傾向にある。Corvoはそういった体質になるのではないかと。
裏話を書いてしまうと、複雑な仕様故の通常ラインからの生産コストの上乗せ分しか、値上げしないことを条件で新モデルの取り扱いを決めた。Corvoが過度の営利に走ることは創業の精神に反するとの思いからである。
意匠の面で特に留意したのは、単にロゴ的に周囲に己のブランドを認識させるもではなく「テーラードの世界で今後数十年通用する洗練された意匠」ということだ。
意外だったことがある。「莞爾」(かんじ)、「奉文」(ともゆき)も鋭くとがった意匠にしスーツを強制された仕事着と捉えている若い方に「スーツは楽しむもの」との意識転換を図る意図があった。
「莞爾」「奉文」は「フロックコート」と「燕尾服」の要素を取り入れ、細部に関しても古典的なものにした。伝統的なスーツが好みの方にも、受け入れやすいようだ。
あくまで、我々の求める「最高のスーツ」とは意匠、質に優れ「花も実もあるスーツ」である。
次回の新モデルは2017年1月以降となるが今後Corvoの提案に期待していただきたい。
第二回 拘り(全三回 ネクタイの取扱にあたって)
今回はCorvoのネクタイの拘りについて
ネクタイは非常に単純な構造だ。それゆえ誤魔化しがきかない。
よい生地、よい芯地、縫製の三位で品質が決定される。いってしまえばどれか一つに手を抜くと粗悪なものとなってしまう。
生地は西陣のものとした。
言わずと西陣は高級生糸を用いた帯用の織物の産地である。数百年の伝統によって磨かれた複雑な織を表現する技術は高い評価をえている。
締める際に、心地よく自然とデンプルを生み出すのは、芯だ。一見にはわからなくとも、上質なネクタイかは締めると、すぐにわかる。
上質な肉厚な羊毛芯、宇治の老舗縫製場による手縫いによるやわらかい風合いにより、自然と美しい窪み結び目に生まれる。
ネクタイとのスーツの調和を意識し奇をてらわず寸法は決まった。Corvoではネクタイが主役となるような、あくの強い物は理想としない。
プレーンノットでネクタイを結んだ際に、ちょうど小剣が大検の下から除くか除かない150㎝とした。Corvoのジャケットの標準襟幅9㎝よりやや細めの8㎝と設定した。