2017年8月
最良スーツの選び方③(縫製)
最良のスーツ①で述べたように、普段使いするならマシンメイドと手縫いの組み合わせた縫製の方が耐久性の面で優れている。
2014年の屋号変更の際、提携先の縫製工場を変えた。その際、重視したのは縫製技術と細かな補正が効くことだ。
多くの縫製工場がCADシステムといって機械で裁断する。Corvoの提携先の縫製工場は手裁断だ。
正直に言うと、CADはコンピューターに通したデータ通り誤差もなく裁断する。ミスも絶対に起こらない。手裁断は誤差も時折ミスも発生する。(手裁断の裁断誤差は3mm以上だと出荷されない。)
なぜ、デメリットを理解しつつCorvoは手裁断に拘ったのか、それは対応力だ。人間はなで肩、怒り肩、ハト胸、猫背などの体形上の特徴がある。そうしたスーツを着た際、美しく見えない身体の不具合をカバーするには手裁断で型紙に補正を入れるのが一番なのだ。また、要望さえあればほとんどのことはできる。
フルハンドの縫製はどうしても縫製が甘く、普段使いでは裏地がはがれた、パンツの側線が裂けたなどの不具合が起こる。店に持っていけば大概は無料で直してくれる。我慢をできるだけの愛着をもてるかだ。スーパーカーもこの点は似ている。
Corvoの定義する「最良のスーツ」は仕事での使用、普段使いが前提だ。
Corvoのスーツは要所ごとにハンドとマシンが組み合わされている。
スーツの顔となる、前身は胸に沿うようにアイロンワークで立体的にする。袖付けは、腕の動きを左右する重要な個所だ。熟練の職人の手によって仕上げられる。
耐久性の求められるパンツの側線は必ずミシンだ。ボタンは手付で取れにくいよう根巻で縫いつける。
一見するとハンドメイドは体に沿い、温かい素朴な表情となる。ハンドとマシンを組み合わせたスーツは立体感を保ちつつも、シャープな印象となる。マシンのみで仕上げると立体感がなく角張った印象となる。
当然、価格面もハンドメイド>ハンドとマシン>マシンとなる。
技法の良い点、悪い点の取捨選択を行った縫製こそ、「最良のスーツ」の要素なのだ。(④に続く)
最良のスーツ②(価格)
この業界にいる人間ならだれもが知っていることだが、ロロ・ピアーナの生地は、同価格帯の他ブランドの生地に比べ柄などは目立ったものがないが、生地の質は抜群にいい。
2013年の夏ごろ、私はロロ・ピアーナの営業担当者と「月に何着売ったら生地を大手より安い値段にしてくれますか?」と尋ねた。提示された数字は当時の売り上げの半分をロロ・ピアーナに向ければ達成できるものだった。「我々の販売力の不足で生地が割高に入ってくるのをお客様に負担させるわけにいかない。」と一念発起して2014年初め、他ブランドの生地の仕入れを絞って販売力をロロ・ピアーナの生地に注力した。
オーダースーツ店というのはその店、さらに生地ブランドにお客様がついているところがある。(だから多くの店は無造作に生地バンチの取り扱いを増やす。本来プロである我々の目を通した品揃えをするべき義務を放棄して。)仕入先を絞ることは賭けだった。
当初は在庫で100着単位で抱え、選べる生地も在庫の中からと制限があった。結果として質の高い生地は、ロロ・ピアーナファンを増やし、月のノルマを達成し今は全種バンチの生地を低価格で選んでいただけるようになった。
昨年、紹介したオリジナルバンチもそうした経緯で生まれた。(オリジナルバンチ紹介記事 リンク先http://www.sartoriacorvo.com/blog/all/cat45/)
派手な特殊な生地を選ぶのならCorvo は適さないが質の良い生地を選ぶならお役に立てるだろう。それも、手頃な価格で。(③に続く)