2012年3月
オーダースーツの楽しみ(釦選び)
オーダースーツを作る際、みなさま意外と悩まれる釦なんですが、通常のオーダースーツ店の場合、プラスチックの釦でオプションで三千円前後で水牛釦かナットボタンをつけるのが一般的でしょう。
Corvoの場合、オーダースーツの存在感をより十分に生かすため水牛釦、ナットボタンはお仕立て代金の中に含まれています。「オプションですか?」とお尋ねになるお客様もいますが無料ですのでご安心ください。黙って有料のものを付けたりはいたしません。(笑)
スーツの場合にメタル釦を付けるのは一般的ではないので説明は省きますが、ナットか水牛か決めかねるお客様が多いのですが、一般には水牛釦です。
水牛釦は以前ブログでご紹介いたしましたように水牛の角を削りつくりだすもので天然素材ならではの経年の色合いの変化を楽しめます。
色合いなんですが角の先のほうが黒く、根元の方が白っぽいです。釦に加工されると削りだした部分の色合いによって白っぽいもの黒っぽいものなどに別けています。天然物なので色合いを別けているだけなので全く同じ色合い、模様のものはありません。釦一つ一つに表情、個性があります。
結構、色合いで選ぶのを迷われる方が多いのですが、普段はかれる靴の色に合わせ選ばられると収まりがよくなります。特に淡い色のスーツ地に黒の水牛釦の場合、茶靴は合わせにくくなります。しかし、濃い色のスーツ地に淡い白っぽい釦でも黒靴はよく合います。
ナットボタンは椰子の実を削りだしたものです。こちらも天然物なので全く同じものはありません。
どちらかというと水牛釦より軽やかな印象を与えますので夏物のスーツ、ジャッケトに使われるのが一般的でしょう。
色々な雑誌を読んでいると手付けの千鳥掛けがいいとありますが実際は安定性が悪いのでお勧めいたしません。装飾的なディテールですね。Corvoはあえて安定性のあるクロス掛けにしています。
ちなみにCorvoのオーダースーツは釦は手付けですので針穴の小さな釦をお勧めします。針穴小さいものだと工業ミシンでは針が通らないので手付けならではの釦です。
オーダースーツに魅せられて
自分自身、オーダースーツに憧れて十代のころからオーダースーツを客として仕立てていました。
最近はCorvoのお客様にも20代前半のお若い方々がよくいらっしゃいます。以前にシャツを購入されたお客様に「お金を貯めてオーダースーツ作りに来ました!」とか言われちゃうと、なんだかうれしいことですね。私自身、若造なんですが涙が出ちゃいますね!(笑)
お金をもらう立場なのでお客様に満足していただくのは当たり前なんですが、お客様に喜んでいただけるのは店員として気持ちのいいものですね。
Corvoの提携工場みたいに高価格、高品質のものを作る工場はまだいいんですが、海外の安い労働力、安い工賃に押されオーダースーツの縫製工場もオーダーシャツも海外移転がどんどん進んでいます。既製品のほとんどはで海外工場で仕立てています。オーダー製品は一品物ですので輸送コストの問題で辛うじて日本に工場が残っているのが現状です。
確かな技術の持っている昔からある工場も折からのアパレルブランドの工賃の値下げ要請で品質が落ちていっていますね。
十年後に消費者の方々が本当に喜べるオーダースーツができるのかの岐路にあるような気がします。その道を左右するのも我々のようなアパレルに携わる人間だと思います。
オーダースーツ10シャツ2ネクタイ1~2靴5
変なタイトルなんですが、事業計画を立てる際に業者の方に教わった一般に言われている購入平均単価の法則があります。
平均購入単価を大まかな比率で言うと「オーダースーツ10シャツ2ネクタイ1~2靴5鞄5~10」になるというものです。オーダースーツの平均購入単価が十万円ならシャツは二万円ネクタイは一万~二万靴は~という法則があるそうです。
靴が好きな方は「靴にはスーツの三倍は出せ!」という方もいます。確かに手入れの行き届いた高級な上質な革を使い作りのいい靴はスーツをそれだけで格上に見せます。
スーツスタイルというのはバランスです。オーダースーツだけ高く、高品質なものでも、シャツのサイズが合ってなく、品質が悪ければ全体の印象は悪くなります。うまくできた法則に個人的には感じています。
値段に比例して品質が決まるわけではありませんが、買い物を際に参考にしてみてはいかがでしょうか。
オーダースーツの形だけではありません店員を見てください!
オーダースーツを注文される際に気になるのはその店のハウススタイルだと思います。「ナポリは柔らかく軽い。ミラノは堅い。」などなどです。
実は店の店員にも大きな違いがあります。
イタリアという国は昔は都市国家でした。それが今でも共和国制をとっていて一つの国家になってるのですが、イタリア人にはその昔名残が強く「自分はローマ人」「ナポリ人」というように都市への帰属意識が高く、その性格も都市毎にばらばらです。
たとえば、ナポリは日本人が意識するイタリア人にちかく女好きで陽気で愉快な人が多いですが、北部に行くほど律儀で堅い人が多くなっていきます。それはナポリは田舎であったことと北部は貴族社会であったことに由来しているとも言われています。
実際にナポリ人の女好きにはイタリアによく出向く日本のデザイナーも舌を巻くほどだとか。仕事の席でも目を放すとすぐに女性に声をかけているとか。北部(ローマ、ミラノ)は日本人のイメージからかけ離れた非常にまじめな方が多いとのことです。(一概にナポリ人が女好きで享楽的とは言えませんが)
オーダースーツにもその特色がよく出ていますね。ナポリはセクシーでミラノは英国調のカッチリ。
また、店員にも違いがあります。日本の仕立て屋さんて皆さんスーツを着ていますよね。ミラノ、英国のテーラーも着ていますがナポリは違います。スーツは着ません。ラフな格好で接客するとのこと。しかも、メジャーなんて使いもしません。自由ですね。(笑)
日本で言われるほどナポリのオーダースーツは体には合っていません。シワも多く縫製も荒いのですがなぜか全体の見栄えはいいのです。それは彼らの女性にいかにモテるかにかける感性がなせる業でしょう!
日本人のようなオーダースーツを工業製品を作る感性でそれを生み出すのは難しいでしょう。しかし、日本の縫製技術は世界一ですのでこの感性を日本人が理解することができれば日本は世界のファッションリーダーとしての地位を獲得できるでしょう。それは近いうちに達成されると思いますが。
ちなみに私も一時期、セーターにシャツの格好で店番をしていました。私も根からの自由人です。
オーダースーツで夏物を作るならモヘア混
「今度、お店に行くけど夏物はすぐ傷むから冬物より安いのを頼みますよ。」とお客様に脅されています。(笑)まぁ事実、夏物は傷みが早いからあまり高いのはお勧めできませんね。オーダースーツは高い買い物ですから失敗して欲しくないですし。
夏物ってどうしても生地を薄くし通気性を高めるために平織りという織り方が多いのでしわになりやすいですね。
平織りというのは磨耗に強くく薄い生地にはいいのですが、どうしても光沢がでにくく質感が落ちます。しかも、シワになりやすいです。
質感が落ちるので繊維自体に光沢のあるモヘアという繊維を織り込んだものが夏物には多いです。
モヘアとはアンゴラヤギかアンゴラウサギの毛のことを指します。スーツ地やジャケット地の場合はアンゴラヤギのけの場合が多いです。
生地感としては麻に似ていてシャリシャリしていてハリがあり麻と違い光沢があります。
多くの場合はウールに20パーセント程度の割合で織られます。理由としてはモヘアは強度が弱く、それだけの繊維では織物に向かないからです。強度がないので長く着れるかといえば不安はあります。太ももが太い方はツーパンツにされたほうがいいです。私は一着、駄目にしました。
最近では冬物にもモヘアを利用したものが多いです。モヘアは静電気を発生させやすいので冬物にはいかがなものかなと思いますが。
既製服はどうしても在庫リスクを軽減するため「無難」な生地で仕立てる場合が多いです。既製服はどうしても「無難」な柄、素材になります。オーダースーツならではの素材に趣向を凝らしたものを仕立ててはいかがでしょうか?
薄いブルーにモヘア混のオーダースーツなんてかっこいいですよ!!!
パターンオーダースーツとフルオーダースーツの違い
Corvoではパターンオーダースーツ、シャツを採用しています。
パターンオーダースーツ、シャツ、フルオーダー、イージーオーダーなど一言にオーダースーツ、オーダーシャツと言っても色々な種類があります。
この業界のいい加減なところでフルオーダースーツと謳っていてもパターンオーダースーツに仮縫いを付けただけでフルオーダーといったりする店も多いので明確な定義はありません。特にオーダーシャツのフルオーダーという場合はほとんど実際にはイージーオーダーをさしています。
フルオーダーは、パターンを一から起こしてお客様の要望を作り手のデザインに加味していきます。
イージーオーダースーツというのは大本のパターンがありそれに寸法を合わせていきます。
パターンオーダーとイージーオーダーの明確な区分けは最近はあまりなくなっていますが、一般にはパターンオーダーは一つのパターンのサイズから袖を詰めたり丈を詰めたりしますが、実際には丈を詰めた分、ポケット位置を高くしたりするのでイージーオーダーに近いです。
最近のパターンオーダー、イージーオーダースーツには「体型補正」というものあります。人それぞれの体の癖に合わせる作業を言います。たとえばなで肩の人にはそれに合わせなで肩の補正を入れたりします。
パターンオーダーのメリットは型を一から作るのではないのでその手間が省けます。よって価格も抑えられます。また、最近では体型補正がありますのでフィット感もいいです。なによりゲージ服を着ていただき要望を聞きますので作り手とオーダー主とのイメージの齟齬が生じにくいです。
フルオーダーのメリットは自由自在にデザインを決定できますが、一から型を起こすのでクライアントと作り手のイメージの意思疎通がはかりくいです。そこで仮縫いという工程を経てよりクライアントの要望に近づけます。
オーダー製品にいえることはお客様の着丈短め、タイト目などの抽象的なオーダーは作り手には実際に何センチ詰めたらいいのか分かりくいので一度目ではなかなか要望にこたえられない場合がございます。
「プロなら一度目で仕上げろ!」とお叱りを受けそうですが、こちらの考える適正値と依頼主の適正値はなかなか一致しません。まぁ、一度目から適正サイズで仕上げない仕立て屋は論外ですが。(以前、私も失敗したことがあるので大きなことは言えませんが)
お客様のなかには他店でオーダーされて「あそこで頼んだらきつかったからここ(Corvo)に来た」という方もいらっしゃいますが、私から見たら適正サイズでしたので「同じ店でゆとりを少し出すようにオーダーされたらいかがでしょうか」とご説明させていただきました。
オーダースーツに合わせオーダーシャツにこだわりを!
オーダースーツに合わせシャツもこだわりたいですね!
「オーダースーツは額」で「シャツとネクタイは絵」などという仕立て屋もいるほどシャツとネクタイは重要な物なのです。
シャツとネクタイを上質(単に値段が高いだけではだめですよ)なものに変えたら安価なスーツでも印象をグッとあげることができます。
最近のシャツはタイトなものが多いですね。ゆとり量も胸周りで15センチ(ややタイトで17センチ、通常が20センチ)お腹周りで12センチぐらいとタイトなものを選ぶ方が増えています。
採寸する側としてはシャツは個人の感覚でゆとり寸が大きく変わるので大変です。お客様は遠慮せずにご要望をお申し付けください。
ちなみに「オーダースーツは額」というのはなかなか、面白い発想ですね。
「一番、はじめに新社会人の方が揃えるべきはシャツとネクタイだ。」という方もいらっしゃいますね。