コルヴォ名古屋・大阪ブログ
最良のスーツ⑤(販売・番外編)
当初、Corvoは決まったお客様を相手にする個人店的な要素が強かった。それはそれで、よい面もあるのだが、顧客様が「俺はCorvoの顧客なんだ」と自慢できるブランドづくりを考えたとき不十分であった。
2014年秋には阪急メンズ館のダンヒルで接客を学んだ支配人 竹村直人を迎い入れた。 ラグジュアリーブランドの経営に関していうと
「最高の接客」「店舗空間」を提供することで、ときに実際の購入対象よりも遥かな高付加価値を与え、「買うプロセス」を商品の一部としたものとして提供するものでなくてはならない。
と定義できるとは考えている。(Corvoではあくまでも購入対象が主であるという考えだが。)
2016年夏には店舗空間に関し、Corvoの「理念」「構想」を具現化した名古屋店を出店した。
Corvoの「最良のスーツ」を生かすのも販売員とお客様とのつながりだと思う。また、多くの新規顧客に受け入れてもらうには接客の質の向上が必要となる。
この業界、Corvoはまだまだ伸び代がある。
2017年秋にまたラグジュアリーブランドでの勤務経験者(羽場フィッター)を迎え入れた。
「接客も商品の一部」という概念を基に店舗空間、その他諸々の改善を図っている。 多くの顧客様に、まだ途上段階にあるCorvoを愛顧していただけることに感謝に絶えない。これからも支援を賜りますようお願い申し上げる。
最良のスーツ④(デザイン)
ほとんどのスーツ店は縫製工場の持っている型紙をそのまま、利用している。言い換えればその工場の形のスーツをブランドタグ、店名を変えて売っているにすぎない。
残念がるかもしれないが、多くの百貨店に入る有名ブランドも、街中のスーツ店も価格は違うが同じスーツということも。タグを見せなければわからないものを、付加価値と呼べるのだろうか?
「最良のスーツ」としての他の要素は満たしが、「Corvoのスーツ」は「Corvoのスーツ」という付加価値を求める上でデザインは重要だった。 2016年の経営課題として本格的に「意匠の提案」を取り組んだ。(2015年から旧「奉文」は取り扱い開始) 縫製工場には普段は使われていない、かつて作った試作品の型紙が多数ある。私はそれをひっぱり出してきて、補正を何度もかけ「莞爾」「奉文」の作成にあたった。
多くの縫製工場では規格化され補正が効かない。そこは提携先の手裁断の強みが活かされた。
「莞爾」「奉文」の発表のため、2016年7月初めてロケ地を借りて撮影を行った。暑くて皆、頭がくらくらした中での撮影だった。あとで「なぜ7月を撮影にした。」と恨み辛みを言われた。(笑)
実際のところ、ホームページに掲載して反響はすぐにはなかった。しかし、1か月ほどしてから「莞爾ってどんなモデルなのですか?」と徐々に問合せが増えてきた。いまではCorvoのアイコンとなった。
特に2017年に発表した「駿」はすこぶる評判がいい。ダブルの意匠を独自で提案しているブランドはほかにないのがウケたのだろう。とくにダブルの型紙は10~20年以上も前のものを使っている工場がほとんどで今の流行に合わない。「ダブル=ださい」を払拭できる意匠になったと自画自賛している。
どのモデルも本来のスーツの意匠に、施されていた伝統的な仕様を組み合わせているので不自然さがない。「提案」することに主眼をおいて奇抜なものなることは避けたかった。通好みの意匠だ。
Corvoのスーツならひっくり返してタグを見せなくても、Corvoのスーツと分かる。さらにスーツ好きには一目見て「計算された優れた意匠」と分かる。(⑤に続く)
最良スーツの選び方③(縫製)
最良のスーツ①で述べたように、普段使いするならマシンメイドと手縫いの組み合わせた縫製の方が耐久性の面で優れている。
2014年の屋号変更の際、提携先の縫製工場を変えた。その際、重視したのは縫製技術と細かな補正が効くことだ。
多くの縫製工場がCADシステムといって機械で裁断する。Corvoの提携先の縫製工場は手裁断だ。
正直に言うと、CADはコンピューターに通したデータ通り誤差もなく裁断する。ミスも絶対に起こらない。手裁断は誤差も時折ミスも発生する。(手裁断の裁断誤差は3mm以上だと出荷されない。)
なぜ、デメリットを理解しつつCorvoは手裁断に拘ったのか、それは対応力だ。人間はなで肩、怒り肩、ハト胸、猫背などの体形上の特徴がある。そうしたスーツを着た際、美しく見えない身体の不具合をカバーするには手裁断で型紙に補正を入れるのが一番なのだ。また、要望さえあればほとんどのことはできる。
フルハンドの縫製はどうしても縫製が甘く、普段使いでは裏地がはがれた、パンツの側線が裂けたなどの不具合が起こる。店に持っていけば大概は無料で直してくれる。我慢をできるだけの愛着をもてるかだ。スーパーカーもこの点は似ている。
Corvoの定義する「最良のスーツ」は仕事での使用、普段使いが前提だ。
Corvoのスーツは要所ごとにハンドとマシンが組み合わされている。
スーツの顔となる、前身は胸に沿うようにアイロンワークで立体的にする。袖付けは、腕の動きを左右する重要な個所だ。熟練の職人の手によって仕上げられる。
耐久性の求められるパンツの側線は必ずミシンだ。ボタンは手付で取れにくいよう根巻で縫いつける。
一見するとハンドメイドは体に沿い、温かい素朴な表情となる。ハンドとマシンを組み合わせたスーツは立体感を保ちつつも、シャープな印象となる。マシンのみで仕上げると立体感がなく角張った印象となる。
当然、価格面もハンドメイド>ハンドとマシン>マシンとなる。
技法の良い点、悪い点の取捨選択を行った縫製こそ、「最良のスーツ」の要素なのだ。(④に続く)
最良のスーツ②(価格)
この業界にいる人間ならだれもが知っていることだが、ロロ・ピアーナの生地は、同価格帯の他ブランドの生地に比べ柄などは目立ったものがないが、生地の質は抜群にいい。
2013年の夏ごろ、私はロロ・ピアーナの営業担当者と「月に何着売ったら生地を大手より安い値段にしてくれますか?」と尋ねた。提示された数字は当時の売り上げの半分をロロ・ピアーナに向ければ達成できるものだった。「我々の販売力の不足で生地が割高に入ってくるのをお客様に負担させるわけにいかない。」と一念発起して2014年初め、他ブランドの生地の仕入れを絞って販売力をロロ・ピアーナの生地に注力した。
オーダースーツ店というのはその店、さらに生地ブランドにお客様がついているところがある。(だから多くの店は無造作に生地バンチの取り扱いを増やす。本来プロである我々の目を通した品揃えをするべき義務を放棄して。)仕入先を絞ることは賭けだった。
当初は在庫で100着単位で抱え、選べる生地も在庫の中からと制限があった。結果として質の高い生地は、ロロ・ピアーナファンを増やし、月のノルマを達成し今は全種バンチの生地を低価格で選んでいただけるようになった。
昨年、紹介したオリジナルバンチもそうした経緯で生まれた。(オリジナルバンチ紹介記事 リンク先http://www.sartoriacorvo.com/blog/all/cat45/)
派手な特殊な生地を選ぶのならCorvo は適さないが質の良い生地を選ぶならお役に立てるだろう。それも、手頃な価格で。(③に続く)
最良のスーツ①(最良のスーツとは)
私がCorvoを起業したのは2011年だ。「最良のスーツを売り出す」という思いでこの業界に飛び込んだ。
当時は「オーダースーツ」がちょっとしたブームだった。スーツが単なる「仕事着」という位置づけから付加価値を求められるようになったのは、この時期からだったと思う。
どんな商売だってそうだが、金をかければいい物はできる。それに消費者が払うかは別だ。
スーパーカーを手縫いのフルオーダースーツと言えば、Corvoのスーツはレクサスといったところだ。
いいものの定義をスペックを重視し、普段の使い心地を無視したものでよいと言えば、手縫いのフルオーダースーツには敵わない。手縫いは体に沿ったラインを表現することには長けているが縫製が甘く、すぐほつれる。またミシン縫いではないので細かい粗はある。後はコストがどうしても高くなる。一人の熟練した職人が月に生産できるのはせいぜい3着~5着。人件費に販売コスト、広告費を上乗せしたら一着当たりの仕立て代は少なくても20万近く必要となる。銀座なら地代を含め最低30万、おおよそ50万。また、月に数着の販売量なら生地も割高になる。
結局、最低で30万、多くの購入価格帯は50万のスーツになる。
私は、普段使いは不向きで、多くの人が手の届かない価格帯を提示してそれを「最良のスーツ」とは思わなかったし、今後も思わない。
最高のスペックを求めるならフルオーダー店に、最低限のスペックを満たしたスーツなら他社、量販店さんに任せておけばいい。
私は付加価値を持たせつつも、価格の面、普段使いに適うスーツを「最良のスーツ」を定義した。(②に続く)
イタリアのスーツは男を引き立てるもの、
私はおしゃれなタイプでない。スーツ以外の服をここ10年は着ていない。
私ごとだが、最近は畑をやりはじめた。どうしても仕事に夢中になっていると季節の移り変わりを感じることなく1年が終わってしまう。だから、季節の区切りを感じるためにはじめた。獲れた作物をお世話になっている顧客様に配ろうと、ジャガイモを掘り起こしたのだが、仕事で忙しく掘り起こすのが梅雨明けになってしまい腐らせてしまった。
私は野良着とスーツしか着ない男だ。(笑)
イタリア人の男はスーツに淡い色の生地を用いた。それは自分を女性にアピールするために。英国人は自分と連れあう女性、妻を引き立てるためにスーツを着る。だからイタリア人のような派手な生地は用いない。 どちらもスーツの意味合いは、同じだ「女性」のために着るものなのだ。
女性は恋をすると、美容院、ネイルサロンに行ったり容姿に普段以上に気を使う。男性は女性の好意に返礼しなくてはならない。(竹村支配人はそうしたことに敏感なようだが、)私を代表するように日本人の男性は、お洒落に対して総じて無頓着だ。
軍服を源流とするスーツ
軍服を源流とするスーツは着る人物に威厳をもたせる意味合いがある。
弱そうな兵隊では外国に侮られる。またいかにも弱そうな指揮官では下の将兵がついてこない。
大胸筋が発達しているように見せると力強さが出る。だから仕立屋は襟をカーブさせ裁断し胸を少しでも高く見せようとする。
ウェストの絞りは相対的に胸の高さを出す。ジャケットは胸をいかに高く見せるかにある。
ダーツの取り方にも試行錯誤する。英米人より華奢な体格のナポリ人は前身までダーツを落とすという手法を編み出した。
テーラードジャケットは胸をいか高く見せるかにある。
パンツのクリースは整列した兵士の脚を美しく見せる。タキシードのパンツの側章もそうした意味合いのものだ。美しく整列した兵士は、規律ある軍隊とみなされ、手ごわい相手と外国にみなされる。
だから、昔の将校は自前の仕立屋で大枚をはたいて軍服を仕立てた。
昔から男女問わず人間は強い男に憧れを抱く。すすんで従おうとする。男というのはそうした装いをしなくてはならない。